コラム・インタビュー

インタビュー

【コロナ禍での音楽活動①】
八千代少年少女合唱団
 指揮者 長岡利香子 氏

JTB演奏旅行デスクでは、コロナの影響を受けながらも音楽活動を継続・再開しようと日々努力している音楽団体の指導者に、【コロナ禍での音楽活動】をテーマにインタビューを行いました。第1回目となる今回は、千葉県八千代市に本拠地を置く、八千代少年少女合唱団の創設者で指揮者である、長岡利香子氏にお話を伺いました。

八千代少年少女合唱団(指揮:長岡 利香子)

八千代少年少女合唱団は1977年に結成、その美しい響きと実力は、数多くのレコーディングCDで聞くことができ、谷村新司氏・吉井和哉氏など有名アーティストとのライブ共演などでも聴衆の耳に届きました。

1984年以降、「子どもたちが自分たちの世界にとどまらない多くの出会いと経験を」をテーマにマレーシア、中国、ドイツ、アメリカ(八千代市の国際姉妹都市であるテキサス州タイラー市)など数々の海外演奏旅行を実施。2000年にはハンガリーで行われた「カンテムス国際合唱コンクール」において金賞第1位を受賞。審査委員長のミクロシュ・コチャール氏より絶賛されました。

2015年3月にはオーストリア・イタリアに演奏旅行を行いウィーン少年合唱団のルーツであるインスブルック・ヴィルテン少年合唱団とのジョイントコンサートを開催。

2020年3月にはウィーン楽友協会にて単独演奏並びに、ウィーン少年合唱団と共演しベートーヴェン「第九」を演奏予定でしたが、コロナウィルスの感染拡大により公演延期。

現在も活動が十分にできない状況ですが、そのような中で団員との絆を深め、子どもたちのやる気と技術を維持・向上させる工夫をされているとのことで、そのあたりをインタビューしました。

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―(JTB)43年の歴史を誇る八千代少年少女合唱団ですが、団員はどのようなきっかけで入団するのでしょうか?

(長岡氏)入団テストは特に行っていません。合唱をやりたいと思った子はだれでも入れます。また、親御さんがお子さんの入団を希望される場合もあります。経歴・学年に関係なく一緒に歌えることが団員同士の絆の醸成につながり、子どもたちにとって合唱が楽しみな活動になっています。結果、音楽的にも人間的にも成長できる場となってるのではないでしょうか。合唱団について知るきっかけは様々ですが、演奏会を聴きいた、当団のホームページを見た、幼稚園のでの出張演奏会を聴いた、などの理由が多いです。

※八千代少年少女合唱団のホームページ https://ybgc.org/

―(JTB)43年の歴史は数々の演奏旅行や有名アーティスト・世界の合唱団との共演、国際コンクールでの1位獲得など華々しい実績となっていますが、合唱団をご指導する中で大切にしていることは何ですか?

(長岡氏)端的に言えば、子どもたちに対して「適当なことをしない、真正面から真剣に向き合う」。お稽古ごとのようなものではなく、楽しければいいやではなく、子供に対して本気で向かっていくことが当然だと考えます。大人が適当な態度をとることは合唱を通じて出会えた子どもに対しても、音楽に対しても失礼と考えております。

2015年3月、ウィーン市の許可を得てウィーン国立歌劇場前の広場で屋外ミニコンサートを開催


―(JTB)八千代少年合唱団の歌声の特徴は、響きとハーモニーの美しさにあると思うのですが、何か特別な練習を行っているのでしょうか?

(長岡氏)「きれいな声を出そうと思う必要はない、きれいな音を聞きなさい。」と伝えています。

すべて耳から!作曲家の想い、人の奏でている音を聞くことがすべてです。お互いに感じあい、ハーモニーを自分たちで作り上げること。そのためには自分の世界だけではなく、外に出て美しい音を聴き、魂が揺さぶられるような音楽体験をすることが大切だと考えています。私自身、子どものころに耳にしたウィーン少年合唱団の演奏が今でも忘れられません。その響きの美しさは、技術を超越した、まさに魂を揺さぶられる体験でした。

―(JTB)本来であれば、2020年3月にそのウィーン少年合唱団とウィーン楽友協会で共演の予定でした。コロナウィルス感染拡大の影響で残念ながら延期となりましたが、今の八千代少年少女合唱団の活動状況について教えてください。

(長岡氏)まず、飛沫感染防止の観点から、日本中の合唱団が演奏会を中止し、練習会場も封鎖され普段の練習もできなくなりました。一番最初に感じたことは「子どもたちと会えなくて寂しい!!」。毎週会い音楽を作り上げることが当たり前だった環境から未曾有の事態となり、率直に感じたことでした。そこで、子どもたちの健康やこころを想いながら、約60人の団員一人一人に電話をかけて話をしました。話ができて本当にうれしかった!今は歌えなくてもいい、話ができるだけで十分。合唱団の子どもたちは「私の宝物なんだなぁ」と感じました。声を聴いて皆の無事を確認出来たら今度は顔を見たくなりました。そこで、オンラインで映像を見ながら、何をするわけでもない、合唱関係なく普段の何気ない会話を楽しむ。子どもたちから手紙をもらったりもしました。

―(JTB)このようないまだかつてない環境の中でも、子どもたちが自ら歌を収録して先生に送ってこられたとか。

(長岡氏)一人一人で歌っている様子をスマートフォンで録画し、指導スタッフあてに送ってきました。中には自身で編集なども行っている子どももいて、びっくりしました。幼稚園など小さいころから合唱団生活を送っていたので、こんなに成長したのかと感動しました。動画で子どもたちの歌声を聴いた瞬間、涙が止まりませんでした。

―(JTB)そのような状況の中で、最近少しずつ練習を再開されていると。

(長岡氏)歌うことはまだできませんが、地元の会場等で少人数での集会許可が出ました。そこで、ジュニアクラス(※3歳~小学3年生までのコース)だけで集まり、当団のレコーディングCDを聴く会を開催しました。子どもたちは聞いているだけでも歌を覚えます。つぎに口パクで。にこにこして音楽を聴こうね、と伝えています。そして、リズム練習として音楽にあわせてダンスをしたり。

8月からは八千代市の協力もあり、ホールで歌えるようになる予定です。最初はフェイスシールドをつけて、密にならないようにして練習を再開します。まず子供たちに伝えたいのは、みんなで歌ったり、音楽聴いたりすると楽しいよねということ。いままでの当たり前だったことがこんなに尊く、そしてありがたいということ。

―(JTB)今回のコロナ禍の影響で改めて感じられたことは?

(長岡氏)改めて合唱団をサポ―トしてくれる周りの方々の存在を感じられたことです。合唱団は創立43年、最初の頃から育ててくれた行政・一般の方・市民の皆様が合唱を大事に思ってくれて、練習再開やウィーンへの後押しをしていただいています。皆さんの理解とバックアップが欠かせません。また、巣立っていった多くのOBOGが合唱団を応援してくれている事実も本当にありがたいです。仕事があっても合唱団のことを忘れずに支えてくれています。常に感謝の気持ちを忘れず、できることから活動を再開し、延期となったウィーン楽友協会での公演も目標に練習に取り組みます。

―(JTB)残念ながら、2020年3月に出演予定だった、ウィーン楽友協会で演奏会「第7回UTAU DAIKU inウィーン」が延期となりました。

(長岡氏)まだ延期が決まる前、2月にウィーン少年合唱団の芸術監督であるゲラルト・ヴィルト先生(※UTAU DAIKU本番の指揮者)が来日され、第九のレッスンを受けましたが、大変勉強になり感動しました。指導となるとついつい理屈や理論を優先したくなるのですが、ヴィルト先生のお話は太陽に例えたり、風に例えたり・・・比喩を交えながら「その音楽をどのように受け入れるのか」を大切にされていました。音楽の原点を感じるレッスンでした。絶対ダメという言葉を言わない。お人柄の素晴らしさが伝わりました。世の中が落ち着いたら、ぜひウィーンに行ってヴィルト先生の音楽を聴いてください!UTAU DAIKUの会場となるウィーン楽友協会は、ウィーンフィルのニューイヤーコンサートの会場であり、そこで歌える機会を得たことは本当に素晴らしいことだと思います。ウィーン楽友協会は世界中の音楽を愛する人たちのためのホール。そうしたホールで歌えることを肝に銘じて「ホールを大事にする気持ち」を持って歌いたいと思います。

★八千代少年少女合唱団の演奏を聴くことができるおすすめCD
「響け歌声」(日本コロンビア)
「のはらうた(三宅悠太)」(教育芸術社)

(インタビュアー:JTB演奏旅行デスク)